シンガポールにおける会社設立の要件
シンガポール政府は海外の企業が進出しやすいインフラの整備を国策として進めており、その結果、日本人を含む外国人であっても100%の株式保有ができるなど、シンガポール法人設立は「外国人フレンドリー」な状況になっています。
とはいえ、日本人にとって、シンガポールという外国で会社を設立し事業を行うには、当然に注意が必要です。様々な要件をクリアし、適法に法人を設立できるよう、準備を整えていく必要があります。本記事では、シンガポールでの会社設立準備のご参考に、法人設立要件について議論をしていきます。
まず最初に、基本要件になる事項が6つあります。
シンガポール法人設立の基本要件リスト
- 取締役の任命:最低限1名必要。加えて、現地取締役1名が必要。日本人取締役+現地取締役、の体制が基本
- カンパニーセクレタリーの任命:セクレタリー・ファームにて任命をする
- 1ドル以上の資本金:最低1ドルから可能。現実的には5万ドル程度は必要
- 1名以上の株主:日本人・日本企業100%保有も可能
- シンガポール内の登記住所:シンガポール内に住所を持つ必要あり、住所貸しサービスで設立することが多い
- 監査人の選任:原則監査が必要な国のため、相応の規模の会社は監査人の選任が要。小規模会社は免除
この最重要な6要件について、更に詳しく以下にまとめました。また各項目について会社設立時にどのように考えるべきか、目安となる会社設立の考え方も概要を付記しております。
シンガポール法人は、設立時を含め常時1名以上の取締役(Director)が必要となります。取締役は18歳以上であれば外国人でも就任が可能です。ただし、取締役のうち1名は現地取締役(Local Director)であることが求められ、会社設立時はシンガポール市民もしくはシンガポール永住権保有者だけが現地取締役となることができます。この現地取締役は会社設立の重要ポイントになります。
例えば、日本人・日本法人が株主となり、当該株主が100%保有で会社を設立するとすると、日本の場合は株主の方が取締役となって終わり、となります。シンガポールにおいては、日本人は現地取締役にはなれないため、日本人取締役+現地取締役(シンガポール人あるいはシンガポール永住権保有者)という体制が最低でも必要です。
実際のところ、会社設立時点でシンガポール人、あるいはシンガポール永住権保有者をいきなり取締役として雇おうとしても、そうした現地の信用できる方がいない、あるいは設立時点に外部から雇用するコストがカバーできない、となるケースは少なくありません。そのため、セクレタリー・ファーム(Secretary Firm、会計事務所+司法書士事務所の機能)が提供している現地取締役名義貸しサービスを利用し、会社設立を行うケースが多くなっています。
現地取締役名義貸しサービスというのは、サービスとして、シンガポール人あるいは永住権保有者が会社の取締役に就任するというものです。多くの場合で、セクレタリー・ファームや法律事務所の代表クラスのシンガポール人会計士や弁護士など専門知識を要する現地在住者が「名義貸し取締役」となります。なお、この名義貸しによる取締役はあくまでも要件クリアが目的のため、事業には一切関与せず、事業には責任を持たない、という契約を結ぶのが通例です。
他に、知人のシンガポール人に依頼する、といった手も無いわけではありません。信用できる人に依頼できる場合はそうした手段も可能です。ただし、会社の取締役というポジションに入る以上、相応の知識や理解が必要となります。逆に知人は経験・知識が無い方である、あるいはそこまで信頼できると言いきれない場合、お互いに大きなリスクになりかねません。サービスとして現地取締役名義貸しをサービスとして提供している知見豊富な会社に依頼をすることで、後顧の憂いなく会社設立を完了し事業にフォーカスする、という選択をされるケースがほとんどです。
尚、国籍や事案のシンガポール内外を問わず、過去に脱税や法律違反といった問題があった場合、一定期間会社の取締役に就任することはできません。日本で会社・事業をやりにくくなったので・・・とシンガポールに法人を作って事業を、という考えではシンガポールでも通用しません。(更にいうと、シンガポールは法律違反や虚偽申告には苛烈な罰則があるので、そうした違反への対応は日本の比ではありません。また機会を見つけて詳細お話できればと思っています)
カンパニー・セクレタリー(Company Secretary)とは、日本語では通例、「会社秘書役」と訳されます。日本には無いポジションで、会社の議事録作成・管理、登記を担う会社法上の役割となります。日本で言うと、司法書士と監査役の役割を一部担う、とも言えます。
シンガポールの全ての会社は、法人設立から6か月以内にカンパニー・セクレタリーを任命する必要があります。セクレタリーはシンガポール国内に在住しており、会計士あるいは弁護士等の有資格者・経験と知識を保持した者であることが求められます。
法人設立登記は専門知識を要するセクレタリー・ファームに依頼するケースが一般的です。この設立を担当したセクレタリー・ファームが、会社設立完了後にそのままカンパニー・セクレタリーとなる場合が大半です。セクレタリーは会社定款、株主総会議事録、ACRA(日本で言う法務局)へ提出する法定書類等の作成やそうした法定書類の保管業務、そして会社登記手続きなど幅広い法務・登記業務を担当します。
資本金は1ドルからの会社設立が可能です。ただ実際は、1ドルの資本金での設立というのは稀です。これは、1ドルのように極めて低い資本金額で会社を設立すると後々問題が起きやすくなるためです。
1ドル資本金の会社に見られる問題としては、会社設立に向けた銀行口座開設の過程において、あまりに資本金が少ないことを理由として口座開設を却下されたと思われるケースが散見されます。これは銀行からするとコミットが低い株主であると判断されること、そして銀行としてもビジネスにならない(取引額が低い)と想定されることが理由と思われます。銀行は却下の場合も理由は開示されませんが、彼らのビジネス・立場から見ると、資本金が低い会社を相手にしないのが合理的なのです。
また、法人設立完了後に日本人がシンガポール当地で働くための就労ビザを申請する場合にも、資本金が低い会社は雇用を維持する財務体力が無い、とみなされて却下されてしまいます。十分な資本金というのは、まともな会社としての体裁と実態を整える上での最低条件なのです。従い、銀行口座の開設やビザ取得といった重要イベントを見越すと、ある程度まとまった資本金を設定した上で会社設立をするのが妥当との判断になります。
設立時は最低限の資本金で設立しておいて、設立後に必要に応じて増資を行う、という流れも実務的に多く見られます。この場合、法人設立が終わった後、増資の株主総会、増資後の登記といった事務手続きが追加で生じます。書類の準備がやや煩雑なのと、各種法定書類の準備や登記に事務手数料がかかってしまうため、会社設立時に必要な資本金がはっきりしていれば、最初からその資本金で会社を設立してしまって問題ありません。(こうした各点を鑑み、通常当社では50,000ドル以上の資本金での会社設立をアドバイスしております)
また、シンガポールにおける資本金は、会社設立後に銀行口座を開設してから振り込む形となります。日本のように会社設立前に払い込んで払込証明を取る、といった手続きはありません。会社設立→銀行口座開設手続き→開設完了後に振り込み、という流れになります。設立時にはお金を用意する・振り込む必要が無いとはいえ、法人設立登記時に申告した決めた資本金は必ず払い込む必要があります。
設立するシンガポール法人の登記住所はシンガポール国内になくてはなりません。そうすると、シンガポールでオフィスを借りて法人設立登記をしよう、とお考えになる方もいらっしゃいます。ところが、シンガポールは家賃が高額なため、会社設立のタイミングでオフィスを借りることは大きな負担になります。会社を設立しても実際に事業を開始し、顧客を獲得し、売上が入ってくるまでは相応の時間がかかるものです。その事業が軌道に乗るまでの間、空に近いオフィスに多額の賃料を支払う、というのは事業の開始時にはおすすめできません。
そこで、会社設立当初は「登記住所貸しサービス」を利用し、郵便物の受け取りも当該登記住所貸しサービスに依頼するケースが多いです。セクレタリー・ファームがこうしたサービスを提供しており、会社設立を依頼するセクレタリー・ファームの住所を借りるケースが多いです。
事業が順調に成長すれば、オフィスを借りるタイミングに登記住所を移す、ということもできます。初期は登記住所を借り、大きくなってきたらオフィスを借りることでコストを抑え、効率よく事業を立ち上げていくことが可能です。オフィスについては、シェアオフィスなども選択肢になります。シンガポールでは、シェアオフィスは広く使われており、日系・ローカル系・グローバル系、様々なシェアオフィスがあり、選択肢も豊富です。
シンガポールでは、原則監査を受けることが法律上定められており、監査人を専任することも必要となります。日本では原則監査が無く、シンガポールでは原則監査がある、というのは大きな違いですね。
ただし、近年規制が緩和されたこともあり、シンガポールにおいても小会社の場合は監査が免除されます。総資産10 million SGD(およそ8億円)、売上10 million SGD、従業員50人の3要件のうち、2つを満たすと監査対象となる、とされました。これはグループで判定されるため、子会社の場合は要注意です。例えば、総資産11 million SGD相当、売上5 million SGD相当、従業員が60人のグループに属するシンガポール法人は2つ要件を満たすので監査対象になります。逆に、総資産2 million SGD相当、売上 12million、従業員40人のグループの場合は監査が免除されます。
現実的には、当初の資本金が8億円を超える、あるいは大企業の子会社として設立される等しない限り、設立時点では監査が免除されるケースが多いと言えます。
最後に
上記の要件を満たせば、シンガポールでの会社設立はそれほど難しいものではありません。専門家に相談をしながら書類や情報を準備し、手続きを踏んでいけば外国人でも比較的簡単に会社設立が完了します。また100%株式を保有できるおかげで、他東南アジア各国に比べて会社設立と会社のコントロールは難しくないと言えます。例えば、インドネシアやタイでは原則外国人は株式の49%までしか保有できません。
とはいえ、会社設立時に決定する会社の詳細次第で、その後の運営立ち上げがスムーズに行くかどうかが決まったり、運営上のコストが増減したりします。セクレタリー・ファームなど、現地の法律や会計に精通した専門家の力を借りて設立する法人をしっかりデザインし、スムーズに法人設立を進めていくことが重要です。
当社シンガ・カンパニー・サービスでは、法人設立のご相談から法人登記後の銀行口座開設までを包括的にサポートする「シンガポール会社設立パッケージ」をご提供しております。10年を超える現地でのサービス提供を通じて磨き上げてきた会社設立・会計・税務の豊富な専門知識と、現地に張り巡らせたネットワークにより収集可能なリアルタイムの現地情報が当社の強みです。シンガポールでの法人設立を意思決定されたものの、要件について不明な点がある、不安がある、といったことがありましたら、こちらよりお問い合わせください。