シンガポールでの会社設立の流れ
シンガポールでは、外国人であっても容易に会社を設立することが可能です。ただし、法人設立に向けては、法律で定められた要件を満たし、手順を踏んで準備を進めて行く必要があります。本記事では、シンガポールでの法人設立にあたり必要になる手続きについてご説明します。
始めに
法人設立前に、まずセクレタリー・ファーム(Secretary Firm)と呼ばれる会社を選びます。セクレタリー・ファームというのは、シンガポールでは一般的な、「会計事務所と司法書士事務所がくっついた業態」で、会計、税務、法務の専門会社です。
通常会社設立にはこうした会社と契約をし、相談をしながら進めていくことになります。また、“カンパニー・セクレタリー”(後述)の専任は会社設立後の法定要件でもあり、通常は会社設立を担当したセクレタリー・ファームがそのままカンパニー・セクレタリーとなります。
※ 法律上は、法人設立手続きはシンガポール人/シンガポール永住権保有者であれば可能ですが、余程知識が無い限りトラブルの元になりかねないのでおすすめできません。セクレタリー・ファーム 、弁護士事務所など、法律や会計の専門家を介して、適法に会社を設立していきましょう。
1.企業名の準備
会社設立に向けて、まずは企業名を準備します。以下の流れで会社名の確保が完了します。
1) 希望する名前を考える;念のため第一希望から第三希望まで、3つほど準備しておくことが望ましいです
2) 簡易チェックを依頼 ;当社のような会計・司法書士事務所では、政府のデータベースに照会してみて、どの社名が取れそうか簡易チェックをすることが可能です
3) 確保する社名を決定 ;現存する会社名や過去にあった会社名と近い社名、不適切な社名、 法律で保護されている文言を含む社名は当局から否認されます。あるいは審査で時間がかかるケースがあります。こうした状況を確認した上で、どの社名を確保するか決定します
4) 社名の仮登記 ;社名を仮登記します。 ACRA(Accounting & Corporate Regulatory Authority、日本で言うと法務局)へ登記をし会社設立まで確保します。最大で60日程度は確保できるため、その間に会社設立を完了する必要があります。
2.会社の登記住所の準備
設立する法人の登記住所はシンガポール国内である必要があります。そのため予め会社住所の確保が必要になるのですが、シンガポールでは会社設立時点ではオフィスを借りない会社が増えています。これは、会社を設立した後も事業の本格開始までに様々な手続きや準備が生じるためで、売上の無いうちからオフィスを借りてしまうと家賃は大きな負担になります。そこで、最初は会計事務所などが登記住所を貸し出し、郵便物の受け取りも代行するケースが多くなっています。当社のお客様もそのようにされる方がほとんどです。
更に、 小規模なビジネスを行う場合は、自宅住所をビジネス用の住所として使用することも認められています。ただし、賃貸の場合は、家主が会社の登記住所に使わせてくれることは少ないといえます。そのため、事業初期は自宅からビジネスの立ち上げをする場合でも、登記住所は別途確保してトラブルを避け、実際の事業運営は自宅から、とするのがおすすめです。なお、登記住所ではない自宅から仕事をする場合でも、家主の了解、当局への届け出と認可が必要です
3.設立する法人の事業内容の決定
シンガポール法人が行う主たる事業内容を決定します。内外資を問わず、事前にライセンスを取得することが必要な事業があるため注意が必要です。こうしたライセンスは、業種によって管轄する官庁が異なります。意図せず違法にビジネスを始める、といったことにならないよう、規制産業においては綿密なリサーチが必要となります。例えば、食品、医療、メディア関連事業はシンガポールでは規制が厳しい産業の一つです。
事業内容が決まると、次はSSICという産業種別コードを選びます。この産業種別コードは、補助金の申請の際の産業判定などにも使われるため、まず実態に一番近いと思われるものを選び、その上で会計事務所などに相談をされるのが良いでしょう。若干の手続きが必要になりますが、後日変更をすることも可能です。
4.設立する法人の会社詳細の決定
資本金の決定、株主の決定、取締役の選定を行います。それぞれ法定要件があり、予めじっくり検討をして、スムーズに法人設立、事業開始ができるよう準備を整える必要があります。
資本金:資本金は1ドルでも会社設立は可能です。ただし、実務上は1ドルではほぼ機能しません。例えば、銀行口座を開くにも1ドル会社は銀行から相手にされません。また1ドル会社では就労ビザを取ることも難しいです。当社では、最低でも3万ドル程度、できれば5万ドルは設定しておくべき、とアドバイスをさせて頂くことが多いです。※なお、資本金の振込や手続きについては日本と大幅に異なりますので法人登記後のところでご説明します
株主 :シンガポールでは外国人/外国企業が100%株主になることができます。最低1人の株主(個人/法人)が入れば会社設立は可能です。法人株主が入ると様々な事務手続きが複雑になります。※この点は機会を見て別途記事を書く予定です
取締役:外国人も取締役になれます。ただし、シンガポールではシンガポール人あるいはシンガポール永住権保有者が最低1名、“現地取締役(Local Director)”として取締役に就任することが必要です。→詳しくはシンガポールでの法人設立の要件詳細をご覧ください
5.法人設立に向けた書類の準備
設立する会社の内容が固まり次第、書類の準備を開始します。一部の書類は準備に時間を要するため、早くて2週間、通常は3週間程度の準備期間を見込まれることを当社ではおすすめしています。各種の申請書、宣誓書の作成とサイン、パスポート等のコピーと公証といった書類が必要になります。※ 当社では、ご契約後に書類の詳細や作成の注意事項をご案内しております
6.シンガポール新法人のACRAへの登記
書類が整った段階で、ACRAに対し法人登記を行います。シンガポールではインターネット上で会社設立が完了するため、手続きをしてから設立登記完了通知まで1日〜2日で全て完了します。設立の登記簿謄本に相当するBizfileとACRAからの登記番号の通知も全てウェブサイト、メールを通じて得られます。
7.法人登記後にシンガポールで発生する作業
法人登記が完了しても、まだ直ぐに取り組むべき作業が残っています。 初回取締役会の開催、銀行口座の開設、各種法定事項の決定を順に行います。
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会社設立取締役会の開催
初回の取締役会では、設立された会社の詳細確認、最初の取締役の選任、 カンパニー・セクレタリー(Company Secretary、会社秘書役)選任、必要があれば監査人の専任、銀行口座開設、 等を正式に決議します。通常は書面による取締役決議で済ませます。こうした議事録も、セクレタリー・ファームが作成します。
カンパニー・セクレタリー(Company Secretary、会社秘書役)の任命
法人設立から6か月以内にカンパニー・セクレタリーを任命する必要があります。セクレタリーはシンガポール国内に在住しており、公認会計士等の有資格者であることが求められます。セクレタリーには会社定款、株主総会議事録、ACRAへの法定申告書類等の作成やそうした法定書類の保管業務が義務付けられています。
会計監査人の決定
シンガポールでは、原則監査が必要となります。一部の会社のみ監査が必要になる日本とは大きくことなり注意が必要です。具体的な手続きとしては、法人設立から3か月以内にシンガポール公認会計士の資格を持つ会計監査人を選任する必要があります。
ただし、会社法で定める小規模会社(Small company)と認められた場合には、会計監査人の決定・監査は不要となります。この監査が免除されるかどうかの判断は、連結ベースになります。例えば、シンガポール法人が日本法人の子会社になる場合、日本法人を親会社としたグループ全体の規模によって、監査が免除されるかどうかが決まります。
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新設した会社の銀行口座の開設手続き
新設された会社の取締役が銀行に必要書類を持参し、銀行口座開設手続きを行います。シンガポールでの法人口座開設は年々審査が厳しくなっており、必ずシンガポールに実際に足を運び、銀行担当者と顔を合わせて開設手続きをすることが求められます。開設手続き後、口座解説完了までに2−3週間程度の時間がかかるのが通例です。この開設までの期間はマネーロンダリングや脱税を防ぐため、銀行が審査を行っており、その審査時間が年々長くなっていっています。審査を円滑に進めるための知見や銀行との関係性は、セクレタリー・ファームにより大きく異なります。経験豊富なファームを選ぶと銀行口座開設でもサポートが得られ、スムーズに、早く口座開設ができることもあります。
銀行口座が開設された後、インターネットバンキングのセットアップとなります。 使用準備が整うまでには、口座開設から更に2~3週間程度を見込んでおく必要があります。シンガポールの銀行は、インターネットバンキングが充実しており、外貨送金もコストが比較的安く、かつ簡単に行うことができます。
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資本金の払い込み
資本金については、法人設立が終わった後、銀行口座ができ次第振り込む形になります。日本のように“払込証明”のような書類や手続きは無く、資本金振り込み時の特段の手続きはありません。ただ、当然ながら会社設立時に宣誓した資本金は必ず払い込む必要があります。通常、口座設立から1ヶ月以内の振込が望ましいです。
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各種書類への会社名・登記番号の記載義務
法人設立後は、会社発行のすべての公式書類に正式な会社名とUEN(Unique Entity Number、法人登記番号)を明記することが法律で義務付けられています。契約書やインボイス、会社の営業資料なども含みます。会社の正式な資料には全てUENを入れておくと問題になりません。
特に注意をしたいのがインボイス(Invoice、請求書)です。消費税の登録会社になる場合、 全てのインボイスに絶対に忘れずに会社名・登記番号を記入下さい。消費税の還付等にはUENの記載が必須になっています。
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就労ビザの申請
会社の取締役を含め、シンガポールで外国人が就労するには、就労ビザ(Employment Pass、EP)を取得することが求められます。法人設立が完了すれば、現地で就労する日本人の就労ビザ申請が可能となります。
近年、EPの発行も要件が厳しくなっています。外国人がシンガポール人の雇用を奪っている、というシンガポール人の主張が年々強まり、政府もEP発行を厳格化して行っています。給与、職歴、年齢など様々な要素でEPが取れるかどうかが決まります。最近の事例をよく知ったセクレタリー・ファームや、人事コンサルタントと相談して取り組む必要があります。
当社シンガ・カンパニー・サービスによる会社設立
シンガ・カンパニー・サービスでは、上記の会社設立の全てをお手伝いしております。当社は30年を超える経験を持つローカル会計士と日本人コンサルタントにより設立され、シンガポールと日本両方の状況に応じたアドバイスをご提供、クライアントにスムーズな会社設立と事業運営をして頂けるよう尽力しております。
お客様のシンガポールの会社設立をわかりやすく・スムーズに行うため、法人設立のご相談から法人登記後の銀行口座開設までを包括的にサポートする「シンガポール会社設立パッケージ」をご提供しております。初回のご相談(30分程度)は無料で対応しており、Skype或いは電話でお話しさせて頂きます。会社設立やシンガポールでの会社運営をご検討の方は、問い合わせフォームよりお問い合わせください。